2019年9月5日木曜日

新聞コラム(その5)


生まれ変わる本  

大ヒットしている作家の本に多数のコピペや問題箇所が見つかり、増刷のたびに内容の修正が続けられているというネットの記事を読んだ。版ごとにどこがどう直されたかを検証する人たちもいるという。

修正数があまりにも膨大だったり、論の根幹にかかわる部分まで大きく直してしまうならば信頼に関わるだろうが、増刷のときに誤りを直したり、新しく分かったことを追記したりして、中身をすこしずつ変えていくというのは、出版業界においては比較的よくあることだ。

本の見た目をがらりとリニューアルするのもよく行われている。たとえば本に巻かれている「帯」を変えること。ヒットしていることをアピールするために、増刷のたびに帯のフレーズを「たちまち増刷」「100万部突破」「映画化決定」などと新しくしていくのはその一例で、景気のいい言葉が並んでいると、本屋さんの売り場も華やいで見える。

ジャケット、つまり本をくるむカバーを丸ごと新しくしたり、さらには本のサイズまで変わってしまうこともある。単行本だったものを文庫として出したり、昔の本を再版したりするケースで、「新装版」などと呼ばれている。

すでに持っている本だと気付かずに買ってしまうこともあるが、逆に、ジャケットが魅力的に生まれ変わったことで、今まで気付かなかった本に出会えることもあるのだ。

もうすぐボーダーインクからも新装版として出される本がある。『おきなわ 野の薬草ガイド』という自然関係の本で、2012年に初版が発行されて以来、ずっと増刷を重ねてきたヒット作だ。

何を新しくしたかというと、全体のサイズを約120%に大きくしたのだ。文言や内容はまったく変えていない。小さな字が読みづらいシニア層へもアピールすることを狙った。

読者の希望に合わせてこんな対応ができるのも、本というメディアの面白さだ。CDやレコードならば、プレイヤーで再生するための規格がある。ところが本には決まった規格はないし、同じ本の見た目を変えてはいけないというルールもない。

もちろん本屋さんに並べやすいサイズとか、流通の時に便利なサイズがありはするものの、理屈の上でいえば、印刷できる範囲でどんなサイズでもどんな形でも作ることができる。

古本業界では、その本が「初版」であるかどうかをとても重要視するそうだ。同じ本でもこれだけの変化があって、しかも同じ時期に多数のバージョンが出回っているとなれば、何も手が加えられていない、なおかつ部数の少ないものが欲しいというコレクター心理も分かる気がする。

ジャケットが変わり、帯が変わり、サイズが変わっても同じ本であるということ。

「本」というものの「本質」は何か。作り手としては、そんなことを突き詰めて考えたくなる。

 (2018年12月8日沖縄タイムス3面)


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