2019年9月5日木曜日

新聞コラム(その2)


季節をイメージさせる色というものがある。
例を挙げれば、春のころは淡いピンク。夏といえば青い空と青い海。秋には枯れ葉を思い出させるブラウン。冬はスノーホワイト。そんな漠然とした、でも強いイメージはないだろうか。
 
なぜこんなことを書いているかというと、最近、『おきなわの一年』という本を出したからだ。

季節のうつりかわり、盆正月やシーミーなどの年中行事に、ムラアシビなどのまつり、しまくとぅばの日やゴーヤーの日といった記念日、時季ごとの食べ物。そんな解説文をボーダーインク編集部が執筆して、イラストレーター、やのわたこさんが絵をつけている。

デザインや編集において季節を表そうというとき、一番手っ取り早いのは、季節をイメージさせる色を使うことだ。

この本もはじめはそうだった。ページや見出しなどに、春はピンク、秋はブラウンの色をつけて…と思い立って、すぐに小さな違和感が生まれた。本当にそうだろうか?
 
一般的には春の花だと思われているサクラだが、ここ沖縄では新年の頃に鮮やかな花を咲かせる。春には、燃えるように真っ赤なデイゴ。4月にはもう暑くなるけれど、夏場は意外なことに極端な高温にはならない。でも12月になっても気温は20度くらいで、雪のクリスマスには縁遠い…。
 
ここは、踏ん張りたいと思った。

沖縄の出版社が作る本を「県産本」という。この県産本においてベストセラーになりやすいのが、実用書のジャンルだ。

これには本土との差異が背景にあるといわれている。例えば、育つ植物が違うから野菜や園芸本でも独自のものが必要になる。すでに本土では行われなくなった年中行事も根強く残っていて、そのためのマニュアル本も多数出版されている。

中国やアメリカとの関係など、歴史の面でも日本とは大きく異なっており、琉球・沖縄史や現代史といえども実用書のように扱われていてヒット作も多い。

県産本がこうして地元密着になっている理由は、「必要とされているから」である。沖縄らしさとは、何も理念だけのことではない。

いわゆる四季だって沖縄にそのまま当てはめることはできないし、もっといえば「沖縄には季節がない」という言い方だって極端だ。ここに暮らしていると分かるけれど、季節の移り変わりはまぎれもなく存在する。「沖縄の冬は寒い」と言うと笑われることもあるが、たくさんの人が共感してくれるだろう。

そうやって苦心しながら、自分の中のイメージを何度も更新しながら、『おきなわの一年』は形になった。

こことどこかの違い、自分とだれかとの違い。当たり前に見えるものが大きな違いをはらんでいることだってある。本作りの難しさも面白みも、そこにあるのだと思う。

(2018年8月11日沖縄タイムス3面)



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