2019年9月5日木曜日

新聞コラム(その4)


本と本屋にまつわるイベント「ブックパーリーOKINAWA」が終了した。ブックパーリーは2013年に「沖映通りえきまえ一箱古本市」から始まり、それから大小さまざまなブックイベントが加わって、いまでは中北部まで範囲が広がるなど、大きなにぎわいを見せている。

今年のイベントの目玉となったのが、「本を巡る冒険バスツアー」だ。本にまつわるスポットを回るのだが、とりわけ興味深かったのが市町村にある図書館だった。

それぞれの地の個性を大きく反映して、恩納村ではガラス張りの窓から西海岸の海が見えたし、沖縄市の図書館はもともと商業施設だった建物を活用してリニューアルされたばかり。グスクを模した美しい外観の中城。並んでいる本もそれぞれに違っていて飽きることがない。

わたしは、沖縄県内にあった本屋さんの足跡を探すことをライフワークにしている。その調べものにも、図書館は無くてはならない存在である。

町の本屋さんから必要な資料を借りられればいいのだが、そう簡単にはいかない。沖縄の本屋さんの数は198090年代頃にピークを迎えており、それからはずっと数を減らしている。この10年だけを見ても3割以上が姿を消してしまったので、店を営んでいた人に出会えることはまれだ。まず文献資料をあたる、つまりは図書館に頼らないといけない。

図書館にこもって新聞の縮刷版、市町村報、復帰前に米軍が発行していた雑誌、企業や官公庁のパンフレット。さらに、商工会の名簿や電話帳などを調べていく。

そして、何よりもわたしが重要視しているのが写真である。文字資料には誤りもあるが、写真に映っている要素にはそれがないからだ。ところが、写真に収めるには本屋は身近すぎて、町に本屋があふれていた時代でさえ、その姿をわざわざ写真に収めるようなことはない。もともと撮りたかったものの背景にさりげなく映っているのがほとんどだ。

だが、歴史的な瞬間を収めた背景に映り込んでいることも少なくない。

たとえば国際通りで行われたパレードに写り込む「安木屋」。アイゼンハワー大統領がオープンカーに乗っている久茂地の大通りと「文教図書」のビル、ガーブ川が氾濫して店が水没した「はなしろ書店」、「車は左」の看板が目の前にある「沖縄教販松尾店」……
図書館でみつけた一枚の写真にだって、これだけ沖縄の歴史が詰まっているのだ。

沖縄の図書館における郷土資料の充実ぶりは全国的にもまれなレベルで、県外から視察にやってくる関係者が引きも切らないという。

そんな郷土資料を活用して、自身や門中のルーツなどを調べている人も図書館ではひんぱんに見かける。沖縄の人のアイデンティティーを担保しているのが図書館だとは言い過ぎかもしれないが、そうした調査ができるだけの環境を、図書館という存在が守っているのは間違いのないことだ。

沖縄の歩んできた歴史を、その身に守り続ける図書館。静かな館内でページをめくるたびに、わたしはその幸せを思う。

(2018年11月10日沖縄タイムス3面)

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