2019年9月5日木曜日

新聞コラム(その1)


2018年7月〜2019年6月に沖縄タイムス「うちなぁ見聞録」でコラムを書きました(全12回)。ほとんどが沖縄と本の話題です。必要があるか分かりませんが、備忘のために転載しておきます。
すでにこのブログに掲載済みの分もありますが、誌面掲載日を記して再掲します。
本に関係のない話題がありましたので、そちらは割愛しました。

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本の世界で、沖縄と韓国がつながりを生みつつあることをご存じだろうか。

東アジアの各国は20世紀、さまざまな紛争や混乱に見舞われ、それまで各地を結んでいた書物による交流は断絶された。その交流を立て直すために、日本の編集者3人が呼びかけ人になって発足したのが「東アジア出版人会議」だ。中国・韓国・台湾・香港・日本に加えて、そこに沖縄も第六の地域として参加したのである。

まだ新参なのだが、この交流をきっかけにいくつかの本が翻訳を果たしており、わたしが編集を手がけた『おうちでうちなーごはん!』(絵と文・はやかわゆきこ)もそのひとつだ。韓国ではじめて、沖縄の料理本が出たということになる。

韓国と沖縄の文化はよく似ている。豚肉や青々とした野菜がずらりと並ぶ韓国の市場のようすは那覇のマチグヮーそっくりだし、小銭をにぎりしめて商店へ駆け込む子どもたちの姿だって、沖縄でよく見かける光景そのものだ。

さらに、今年の9月には「沖縄文化センター」が富川(プチョン)の図書館にオープンする予定だ。プチョンは国際映画祭やマンガサミットなどもひらかれる映像文化の発信地で、そこへ沖縄から本が寄贈されるとともに、沖縄県立図書館との相互交流なども行われ、沖縄を発信する拠点になることが期待されている。

これらの取り組みの中心になっている「東アジア出版人会議」と深いかかわりを持つのが、韓国の坡州(パジュ)という街だ。アジア有数の出版都市といわれ、書店や出版社、印刷所などが立ち並び、さらに軍事境界線をはさんで北朝鮮と隣接している。

一年前にパジュを訪れたときに見た、近代的な街並みに鉄条網が不似合いに巻きついていた景色を忘れられない。朝鮮戦争が起こったあとにも南北では互いの書籍の輸出入や出版が細々と行われていたが、それもいつしか途絶えてしまったそうだ。

4月、南北の歴史的な会談が行われたというニュースをテレビで見ながら、わたしはパジュの景色を思い出していた。あの鉄条網が取り除かれ、ふたたび書物での交流が取り戻されることを願った。

本にはたくさんのものが宿っている。歴史や文化、思想、アートや音楽、言葉や食べ物など、人々のあらゆる営みが写し取られた本は、距離も時間も超えていくし、ときには争いの歴史をも乗り越えていくはずだ。

同じように、プチョンにおくられた本たちや翻訳された本を読んで、はじめて沖縄を知る人もいるだろう。ハングルに訳された『おうちでうちなーごはん!』を参考にして豚肉や野菜を買い、夕食の支度をする人もいるだろう。 

新しく始まる歴史と、そこから生まれる人々の豊かな営み。わたしが手がけた一冊の本がすこしでも役に立つならば、こんなに幸せなことはない。

(2018年7月12日沖縄タイムス3面)



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