2019年2月22日金曜日

ブックンロール2019に関連して書いた文章(その2)

ブックンロールオキナワ2019に関して、新聞でコラムを3本書きました。
せっかくなので順次こちらのブログに掲載します。

その1はこちら

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本の巡る場所(初出:2018年11月10日 沖縄タイムス3面「うちなぁ見聞録」)

わたしたち沖縄の出版社では、自分たちで作る本を「県産本」と呼んでいる。その多くが沖縄で購入されているから、そうなれば作るときもおのずと地元に目線を向けたものになるし、売れる場所が限定的になって部数も多いとはいえない。

「もっと外に打って出ればいいのに」「外に出たって売れないよ」なんて口さがない声が聞こえてきて、むっとすることも納得することも、よくある。

だけど、地域も部数も限られていることがメリットというケースもあるのだそうだ。

わたしは出版社の人だから、本がたくさん売れればそれに越したことはない。だけど、古本屋さんでは事情が違っている。どういうことかというと、古本の世界では、手に入りにくいものの方が希少だとして価値が上がるのだ。

日本の中心地から離れた沖縄という場所で、部数は少なく、流通も限られた県産本を手に入れられることが、沖縄の古本屋さんにとってメリットになっているという。

へぇ、そうか、と思った。

もちろん、出版社にとってもメリットは大きい。本屋さんが減りつつあるなかで、県産本を積極的に仕入れて売ってくれる店はとても大切な存在だ。

「沖縄では本の業界の仲がいい」とはよく言われるが、それも当然のことだろう。わたしたちはゆるやかにつながりながら、本という血液をめぐらせて生きているようなものだ。

ある日、こんなことがあった。小学生の娘を学校へお迎えに行ったら、娘にいつもの元気がない。車に乗ってきて、泣きはらした目のまま黙り込んでいる。

様子をうかがうと、どうも友達とけんかをしてきたらしい。
どうしたもんかなと少し考えて、そのまま本屋さんへ連れて行くことにした。

知人が経営している小さなブックストア。娘はなんとなく店をぶらぶらしながら棚を眺めていたが、そのうち気になった本をめくるようになり、そっとベンチに腰をかけて読み始めた。

おうちや仕事場ではない、「第三の居場所」―。そんな話題を目にすることが増えてきた。それはサードプレイスなどと呼ばれていて、大人ならたとえばカフェだったり趣味の場だったりするのだろう。

でも子どもだとどうか。カフェに行くようなお金を持っている子は少ないだろうし、やたらに口を出されず、なによりも安心して過ごせるような、子どもにとっての「第三の居場所」、それは、本屋さんや図書館という「本のある場所」じゃないかと思う。

長いこと座り読みをしていた娘は、地元の新聞社が発行しているマンガ本を買った。気のいいお店の人とおしゃべりをして、帰り道は二人で笑いながら帰った。

これからも、めそめそしたいとき、元気がないときは、本屋さんに行けばいい。

誰かが作った本が、ある場所では誰かを生かし、ある場所では誰かをいやしながら、人と人とが有機的につながっていく。沖縄という小さな島々でそういう巡りがあることに、私は心から安らぎを覚えるのだ。
(喜納えりか・ボーダーインク編集者)




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